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日本サッカーはほんとうに強くなったのか(大住良之著、後藤健生著/中央公論新社) [書籍]

2000年にサッカー・ジャーナリストの大住良之さんと後藤健生さんのお二人が、テーマ毎にゲストを招いてサッカー界の現状について座談会形式で議論した内容を記録した本である。座談会のテーマは大別すると、「育成」、「クラブのあり方」、「サッカー界とメディアとの関係」ということになろうか。

新米サッカー・ファンの悲しさで、ゲストの方々の名前はほとんどわからない。だが、育成についての座談会のゲストの一人に布啓一郎さんという方がいた。当時、市立船橋高校サッカー部監督を務めていた人である。私は先日、市立船橋とフロンターレ・ユースの試合を観てきたので、あの力強くて激しいプレー・スタイルを作ってきたお一人かと思うと非常に感慨深かった。

さて2000年というと、フランス・ワールドカップへの出場を果たし、日韓共催は決まったものの、日本サッカーが今後も順調に発展していくのか不安もあった頃だと思う。この本のタイトルが「日本サッカーはほんとうに強くなったのか」という問いかけになっているのも、そういう自信のなさの現れのように思う。今読めば、この本に書かれたことも過去の出来事として客観的に眺めることができるが、発刊当時この本を読んだ人は、日本サッカー界の課題山積の状況に頭が痛くなるような瞬間もあったのではないか。そう思われるぐらい、これでもかこれでもかと様々の問題が出てくる。Jリーグ・クラブの赤字問題、育成資金の問題、芝の練習場の不足、低レベルのサッカー記者、中田英寿のインタビュー拒否等々。何だか日本サッカー界が当時抱えていた悩み、問題、不平、不満のデパートのような本でもある。

しかしもちろん、問題があるからこそ、こういう本を出す意義もあるわけである。座談会形式のため、話はあちこち飛ぶし、特に結論めいたものは示されない。だが、あーでもない、こーでもない、外国じゃこうしている、うちじゃこんなやり方をした、あれじゃあダメだ…等々、侃々諤々の議論が行われるその行間から、議論の参加者それぞれの日本サッカーをもっと強くしようという熱意が溢れ出してくるような本である。

最終章は、大住、後藤両氏による当時の日本サッカー協会会長、長沼健氏へのロング・インタビューである。これだけ別の本にしてもいいのではと思うぐらい読み応えがあった。長沼さんの話は、旧制中学時代の広島での被爆体験から始まる。淡々とした語り口であるが、原爆投下直後の街の様子は、私には想像することもできない凄まじい世界である。そして終戦直後の芋畑のグラウンドをローラーでならしてサッカーをした時代から、デットマール・クラマーとの出会い、メキシコ五輪後の低迷期、日本サッカー・リーグの創設、Jリーグの立上げ、日韓ワールドカップの決定までが、当事者ならではのエピソードを交えて一気に語られる。特に、お金を巡る苦労話が生々しくて興味深かった。私ごときが結論めいたことを書くのはおこがましいので、この章の大住良之さんの「前説」の最終部分を引用したい。

「…何よりも一足飛びにプロができたのではないということ。多くの人の献身的な働きと、サッカーへの情熱によって、一歩一歩『ビッグスポーツ』へと進んできたこと。そして、少し前まで雲のなかにあった『山頂』が、ようやく視界に入ってきたこと。目の前の試合だけにとらわれず、歴史を知り、長期的な展望からいろいろなことを考えていきたいと思う。」

私は今、「日本サッカーはほんとうに強くなった」のだろうと思う。しかし、所詮は数年前からのにわかサッカー・ファンのため、日本がワールドカップの常連になって以降の良い時代しか知らない。なんだか美味しいとこどりをしているようで気が引ける、せめて昔のことをもっと知ろう。そう思ってブックオフで税込み105円で買った本であるが、本当に買ってよかった。
 
日本サッカーはほんとうに強くなったのか

日本サッカーはほんとうに強くなったのか

  • 作者: 大住 良之
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2000/09
  • メディア: 単行本
 
日本サッカーはほんとうに強くなったのか (中公文庫)

日本サッカーはほんとうに強くなったのか (中公文庫)

  • 作者: 大住 良之
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2002/05
  • メディア: 文庫


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